4つのコア・テクノロジー

エクソソーム(EV)を製造し、医療応用するまでには、多くのステップがあります。 当社は、各ステップで独自のコア・テクノロジーを開発し、高品質でスケーラブルなEV生産基盤の確立を進めています。

①薬効の高いEVを安定的に産生させる細胞活性化技術と、それを用いた天然型「Prime-EV®

細胞を培養する際に、特定の刺激を与えて細胞を活性化(プライミング)すると、細胞から産生されるEVの薬効成分(タンパク質や核酸)を増強することができます。しかし、治療目的に応じた薬効成分を増強するための刺激条件の決定は簡単ではありません。そこで、当社では、独自の分析技術(④)を用いて EVの力価と薬効マーカーの含有量を確かめながら細胞の刺激条件を絞り込み、治療効果の高いEVを安定的に製造する細胞活性化技術を開発しました。これにより、スケールアップや商業生産の際にも、薬効が担保されたEV製剤を供給することが可能です。この細胞活性化技術で製造した天然型EVを当社では「Prime-EV®」と呼んでいます。(特許出願済*1

② 改変型EV「Smart-EV™」の作製技術と、それを用いた次世代ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)

EVを産生する細胞に遺伝子改変などを加えることにより、EVに抗原や核酸などの様々な分子を搭載することが可能です。このような改変型EVは、ワクチンや核酸医薬におけるDDSとしての応用が期待できます。そこで当社では、EV改変研究の第一人者である東京大学大学院医学系研究科の小嶋良輔准教授と、ワクチンサイエンスの世界トップレベル研究者である東京大学医科学研究所の石井健教授らとの共同研究により、複数の分子の搭載で特定の疾患に対する治療効果を高めた改変型EV「Smart-EV™」の探索研究を進めています。EVへの抗原の搭載には、石井教授らの発明*2を利用し、核酸(mRNA)の搭載と標的細胞内へ輸送には、小嶋准教授らのEXOtic device 技術*3を利用しています。まず取り組んでいるのは、抗原と核酸のデザインにより免疫を自在に制御する機能を付与したSmart-EV™です。その用途として、EVに免疫制御成分を搭載したEVワクチンの開発を想定しています。
さらに当社は、特定の臓器や細胞への送達効率を高めたアクティブターゲティング機能をSmart-EV™に付加することも視野に入れています。現在ワクチンや核酸医薬の送達にはウイルスベクターや脂質ナノ粒子(LNP)が用いられていますが、安全性、有効性、動態などの課題を抱えています。アクティブターゲティング機能を持つSmart-EV™はこうした課題を解決する可能性があり、がん治療、核酸医薬、遺伝子治療などに幅広く応用可能な、次世代DDSとしての発展が期待できます。

③ EV の活性を損なうことなく高収率に精製する技術「INPACT-EV®」

細胞の培養上清には、EV以外にも様々な成分が含まれており、なかには有害なものやEVの薬効を阻害するものもあります。このため、EVを高純度に精製することが重要ですが、その際、EVの活性が損なわれないように配慮しなければなりません。当社では、バイオ医薬品製造に汎用される限外ろ過膜と分離カラムを数多く評価し、運転パラメーターを調整することで EV製造に最適化された精製技術INPACT-EV®を確立しました。INPACT-EV®システムはソフトウェアで自動制御され、EVに物理的、化学的なダメージを与えることなく、高い回収効率でEVを大量精製することができます。

④ 薬効再現性を担保するEV 分析技術「EV-QUEST™」

精製したEVが用途に合った薬効を示すかどうかを定量評価する分析技術を独自に開発しました。中心となるのは、EVの作用メカニズムに応じて力価を測定するセルベースアッセイと、薬効と関連するマーカー分子群を同定し、分子ごとに定量する一連の分析手法です。これらの分析技術により、非臨床試験、臨床試験の段階での薬効再現性を高めることができます。 ①②③の技術開発はこれらの分析技術によって支えられています。

  • *1:特願2023-85442「特定条件で刺激された細胞から得られる細胞外小胞」
  • *2:特許第6786074号, US20190112351「エキソソーム標的DNA ワクチン」
  • *3:Nat Commun.2018 Apr 3;9(1):1305.

研究環境

自社ラボ

当社は交通至便な大手町ビル内のInspired. Labにあります。Inspired. Labは、カフェラウンジ、ライブラリー及びイベント・スペースを備えたイノベーション・スペースです。新規事業創出に取り組む大企業と先端テクノロジーを持ったスタートアップが同居しており、各種部活動や交流イベントに参加することで、同質的なネットワークから飛び出し、ユニークな出会いの機会が得られます。

当社はこのInspired. Labの一角に、丸の内・大手町エリア初のウェットラボを構えています。都心にもかかわらず、細胞培養、エクソソームの精製・分析、BSL2実験などが可能です。また、地下鉄大手町駅直結のロケーションを活かし、近隣の医学系大学との共同研究を通じて動物実験施設や共通機器を利用し、資金効率と生産性を高めています。

2024年1月には、エクソソーム製造用に清浄度の高いクリーンルームを設置し、運用を開始しました。現在、バイオ医薬品製造で実績のある製造委託先(CDMO)と連携して、治験薬GMP体制の整備を進めています。

研究体制

当社では、大手製薬企業やバイオベンチャーで豊富な実務経験を積んだ研究者が、それぞれの高い専門性を持ち寄って共通の目標に向かって切磋琢磨しています。さらに、特定の大学や研究者に限定することなく、基礎または臨床における領域トップの研究者との共同研究を行うことによって、研究生産性を高め、同時に、社内研究員のスキルアップの機会を提供しています。

コンプライアンス

当社は、研究開発が科学的・倫理的観点から適正に行われ、社会の信頼に応えられるようにするため、研究に関する以下の取り組みを整備し、適切な運営に努めています。

委員会の設置

社外委員を含めた以下2つの委員会を設置しています。委員会は、法令、指針及び社内規定に照らして、研究内容の科学面、倫理・コンプライアンス面、並びに当社における実験の安全確保の状況を審査します。

(1)研究倫理審査委員会:当社におけるヒト試料等を扱う研究を審査します。研究倫理審査委員会の概要・議事録は、厚生労働省HP「研究倫理審査委員会報告システム」で公開しています。

(2)遺伝子組換え実験安全委員会:当社における遺伝子組換え実験の安全確保を目的に、実験計画、実験施設、教育訓練及び健康管理、事故発生時の処置等に関する事項について調査、審議します。
※委員、規程を公開予定

研究倫理規程の制定と企業文化へのインストール

当社の研究開発に携わるすべての従業員が、科学研究のあるべき姿や良心に従って研究活動を遂行するよう、不断に自覚し遵守すべき規範として「研究倫理規程」を制定し、研修の受講を義務づけています。さらに、経営陣及びマネージャーは、普段から従業員の心理的安全性の確保に努め、社内でデータ・エビデンスに基づいた活発な議論がなされるよう企業文化の醸成に努めています。(Our Value参照