エクソソーム創薬の世界的な状況を調べました。現時点で製造販売承認を受けたエクソソーム製剤はありませんが、いくつかのベンチャー企業が開発を臨床段階に進めています。
エクソソーム創薬には大きく分けて二つのアプローチがあります。1つ目は幹細胞等の培養上清に含まれるエクソソームを精製して利用する天然型エクソソーム、2つ目はエクソソームに外因性の治療成分(ペイロード)を搭載した改変型エクソソームです。天然型は細胞由来の成分を治療に用いるため毒性リスクが低く、臨床試験実施のハードルが低いと考えられます。これに対して、改変型は、製造技術の確立、安全性及び薬効薬理の検証等の開発のハードルが、天然型よりも高いと考えられます。
実際に、天然型エクソソームは、米国を中心に臨床試験の進展が見られます。例えば、Direct Biologicsは、骨髄間葉系幹細胞由来の天然型エクソソームを用いた、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の患者約100名を対象としたPhaseⅡ臨床試験において、安全性を確認し、60日時点での死亡率がプラセボと比較して有意に改善することを示すデータを取得しました。同社はこの結果を受けて、2023年に900名を超えるARDS患者に対するPhaseⅢ試験の開始を発表しています。また、RIONは、血小板由来エクソソームを用いて、糖尿病性足潰瘍の患者を対象としたPhaseⅡ臨床試験を、Aruna Bioは、神経幹細胞由来エクソソームを用いて、虚血性脳卒中患者を対象としたPhaseⅠ/Ⅱ臨床試験を開始しました。
一方で、改変型エクソソームの開発競争も始まっています。韓国のIlias Biologicsは、抗炎症作用を持つタンパク質を搭載した改変型エクソソームのPhaseⅠ試験を完了し、米国のCapricor Therapeuticsは、ウイルス抗原を搭載した改変型エクソソームにより、ウイルス感染症を予防するエクソソームワクチンの臨床試験準備を進めています。改変型エクソソームは、タンパク質、ペプチド、核酸等のペイロード(治療用成分)を標的細胞に効率よく、かつ安全に送達できる可能性があることから、今後は基盤技術の活用を目指したパートナーリングが進むと予想されます。
以下の表は、エクソソーム創薬の世界的な開発状況をまとめたものです。
企業名 | 所在国 | エクソソーム製品のタイプ・特徴 | 対象疾患 | ステージ | 臨床試験実施場所 |
---|---|---|---|---|---|
Direct Biologics | 米国 | 骨髄間葉系幹細胞由来エクソソーム | COVID-19によるARDS | Phase 2完了、Phase 3予定 | 米国 |
RION | 米国 | 血小板由来エクソソーム | 創傷治癒 | Phase 2完了 | 米国 |
Aruna Bio | 米国 | 神経幹細胞エクソーム | 虚血性脳卒中 | Phase 1/2実施中 | 米国 |
Aegle Therapeutics | 米国 | 間葉系幹細胞由来エクソソーム | 表皮水疱症 重症熱傷 |
Phase 1/2a実施中 | 米国 |
Kimera Labs | 米国 | 血小板由来のエクソソーム | 脱毛症 | Phase 2実施中 | 米国 |
ExoCoBio | 韓国 | 幹細胞由来のエクソソーム | 脱毛症 | Phase 1/2a完了 | 韓国 |
Ilias Biologics | 韓国 | 改変型エクソソームによるDDS | 炎症性疾患 | Phase 1完了 | 韓国 |
Unicell Bio | 中国 | 間葉系幹細胞由来のエクソソーム | 肝硬変 | Phase 1 | 中国 |
Capricor Therapeutics | 米国 | 改変型エクソソームワクチン | COVID19 | Phase 1 | 米国 |
Evox Therapeutics | 英国 | 改変型エクソソームによるDDS | 希少疾患 | Preclinical | (未定) |
このような中、当社は、天然型エクソソームEXP01を用いて、肺障害を対象とした臨床試験の準備を進めてきました。2024年2月に米FDAとの治験申請前協議(Pre-IND)で得られたポジティブな回答を踏まえて、いよいよ2025年には米国での臨床試験に進む予定です。
米国の臨床試験で安全性が確認されれば、日本国内でもPhase 2以降の臨床試験を実施し、日本の患者さんに新たな治療選択肢を提供することができます。
エクソソーム創薬はまだ発展途上の分野ですが、その可能性は計り知れません。今後、エクソソームの特性を活かした新たな治療法の開発が加速することが予想され、患者さんの治療選択肢の拡大につながることが期待されます。日本発のイノベーションを世界に発信し、国内の医療にも貢献すべく、当社は全力で研究開発に取り組んでまいります。