疾患概要及び市場

当社は、EV製剤の対象疾患を慎重に評価し、選択しています。以下に、その概要を示します。

急性呼吸促迫症候群(ARDS):当社候補品EXP01の適応疾患

疾患概要*1 ARDSは、急性の肺損傷により重篤な呼吸不全が生じる疾患です。感染症、外傷、敗血症、重症肺炎など様々な原因で引き起こされます。急激な息切れ、呼吸困難、酸素不足による深刻な息苦しさなどの症状を呈します。多臓器不全、感染症、出血など重篤な合併症を引き起こす場合もあり、死亡率は35-46%です。治療法は、呼吸管理を中心とする全身管理と薬物療法に分けられます。呼吸管理は酸素療法、人工呼吸器(呼吸補助装置)の使用が一般的で、重症例では、ICUでのケアが必要となる場合があります。薬物療法では、ステロイドが処方されることがありますがエビデンスに乏しく、生存率の改善に効果のある新薬が望まれています。
治療薬の市場規模*2 ARDS治療薬の世界の市場規模は、2024年に約4,900億円、2029年に6,500億円まで拡大すると予測されています。この期間の年平均成長率は5.7%の見込みです。
この疾患をターゲット
とする理由
ARDSは、死亡率の高い疾患であるにもかかわらず、生存率改善に寄与する有効な薬剤は存在しません*3。このため、抗炎症作用を有することが知られている間葉系幹細胞(MSC)を用いた臨床試験が世界中で実施され、一部の試験では、生存率改善の効果が報告されています。
当社は、MSC由来EVがMSCの薬効の本体であるという研究報告に基づき、独自の細胞活性化技術を用いることにより、抗炎症成分を豊富に含む天然型Prime-EV® EXP01をMSCから作製することに成功しています。疾患モデルマウスを用いた実験により、EXP01はMSCを細胞のまま利用するよりも高い抗炎症効果を有することが確認されました。

特発性肺線維症(IPF):当社候補品EXP01の適応疾患

疾患概要*4 IPFは、肺胞壁の慢性炎症の結果、細胞壁が徐々に厚く硬くなり(線維化)、呼吸困難となる、原因不明、進行性の疾患です。主な症状は、息切れ、慢性的な乾いた咳、体重減少、疲労感などで、最終的に酸素の取り込みが困難になると死に至ります。診断確定後の50%生存期間は3〜5年と、予後が非常に悪い疾患です。治療には、抗線維化作用を有するピルフェニドン及びニンテダニブが承認薬として使用されています。
治療薬の市場規模*2 治療薬の世界の市場規模は、2024年に6,900億円、2029年までに9,650億円まで拡大すると予測されています。この期間の年平均成長率は7.0%の見込みです。
この疾患をターゲット
とする理由
ピルフェニドン及びニンテダニブは、下痢、食欲不振、肝障害などの副作用の発現率が高いにもかかわらず、生存期間を延ばす効果はほとんどありません。したがって、患者の治療満足度は十分ではなく、より有効性が高く副作用の少ない新薬の開発が望まれています。
MSCは、抗炎症作用にとどまらず、抗線維化作用および組織修復作用も有することが知られています。これまでに、MSCのIPF治療への応用を目指した臨床試験が海外で実施され、高用量のMSC投与による肺機能改善が報告されています。当社が独自の細胞活性化技術で作製したEXP01は、MSC由来の抗炎症成分と抗線維化成分を、通常の天然型MSC由来EVよりも豊富に含んでいることから、IPFに対する高い治療効果が期待されます。疾患モデルマウスを用いた実験により、EXP01は承認薬よりも高い抗線維化効果を有することが確認されました。

不妊症

背景と当社のソリューション 女性の高齢化で卵子の質及び数が低下し、自然妊娠が難しくなります。晩婚化などを背景に、今や日本では4.4組に1組のカップルが不妊症に苦しんでいます。不妊の原因は、男性側、女性側、あるいはその両方にある場合がありますが、何も原因がない場合もあります。
2022年4月より、基本的な不妊治療が保険適用となり患者の経済負担は軽減されました。しかし、高齢女性の妊娠成功率は低く、治療期間が長期化する傾向があることから、患者の身体的、精神的負担は解消されていません。また治療継続のために仕事を辞める女性も多く、労働損失などの経済損失は、社会全体で 3,000億円と推計されています。*5
当社は独自技術により、卵巣機能を向上させるタンパク質や核酸成分を豊富に含む天然型Prime-EV®(EXP02)を臍帯MSCから作製することに成功しています。EXP02を用いて、不妊症に対し早発卵巣機能不全(POF)の治療薬というソリューションを提供することを目指しています。
薬剤市場規模*6 不妊症を対象にした薬剤の世界の市場規模は、2022年までの累計で5,400億円、2032年までには9,600億円に拡大すると予測されています。この期間の年平均成長率は、5.9%の見込みです。
早発卵巣機能不全 (POF)の
疾患概要*7と、この疾患を
ターゲットとする理由
POFは一般に40歳未満で月経がこなくなる疾患であり、難治性の不妊症の原因となります。卵子が急激に減少したり、卵子があっても発育が不良となったりする疾患です。30歳未満の女性の0.1%、40歳未満の女性の1%にみられ、無月経の原因の約10%を占めます。原因の10〜20%は、自己免疫疾患、染色体異常、医原性(卵巣手術や化学療法、骨盤への放射線治療による)ですが、多くは原因不明です。対症療法として女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の補充療法が行われる場合がありますが、疾患そのものを治す治療薬は存在しません。
マウスを用いた実験により、EXP02は障害を受けた卵巣の機能を改善する効果が確認されているため、POFに対する治療法となることが期待されます。

出典

  • *1 一般社団財団法人 日本呼吸器学会、公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター、Crit Care. 2023 27:31
  • *2 Mordorintelligence 2023
  • *3 ARDS診療ガイドライン2021
  • *4 一般社団財団法人 日本呼吸器学会、公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
  • *5 ボストン コンサルティング グループ試算(経済産業省 令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業)
  • *6 Global Market Insights 2023
  • *7 一般社団財団法人 日本内分泌学会