2024.05.23

エクソソーム創薬:世界の開発動向と日本発ベンチャーの挑戦

エクソソームは、細胞から分泌される脂質二重膜の小胞体であり、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしています。近年、このエクソソームを治療に応用する「エクソソーム創薬」が世界的に注目を集めています。

エクソソーム創薬には大きく分けて二つのアプローチがあります。一つは幹細胞などから分泌される天然型エクソソームを直接利用する方法、もう一つはエクソソームを薬物送達システム(DDS)として活用する方法です。

天然型エクソソームを利用する代表例として、米国のCapricor Therapeutics社が開発中のCAP-1002があります。これは心筋由来のエクソソームを用いてデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するもので、現在第2相臨床試験が進行中です。また、米国のDirect Biologics社は、骨髄間葉系幹細胞由来のエクソソームを用いてCOVID-19による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)治療薬ExoFloを開発しており、第2相臨床試験が完了し、第3相試験が予定されています。

一方、エクソソームをDDSとして応用する研究も活発化しています。英国のEvox Therapeutics社は、エクソソームを利用したDDS技術を開発し、Niemann-Pick病C型を対象とした治療薬EVX-001の第1/2相臨床試験を欧州とオーストラリアで実施しています。
以下の表は、エクソソーム創薬の世界的な開発状況をまとめたものです。

企業名 所在国 エクソソーム製品のタイプ・特徴 対象疾患 ステージ 臨床試験実施場所
Capricor Therapeutics 米国 心筋由来のエクソソーム デュシェンヌ型筋ジストロフィー Phase 2 米国
ReNeuron 英国 神経幹細胞由来のエクソソーム 網膜色素変性症 Phase 1/2a 米国
Evox Therapeutics 英国 エクソソームを用いたDDS Niemann-Pick病C型 Phase 1/2 英国、ドイツ、スペイン、オーストラリア
Aegle Therapeutics 米国 間葉系幹細胞由来エクソソーム 表皮水疱症 Phase 1/2a準備中 (未定)
Kimera Labs 米国 血小板由来のエクソソーム 脱毛症 Phase 2 米国
Stem Cell Medicine イスラエル 間葉系幹細胞由来エクソソーム 脳卒中、心筋梗塞など Phase 1/2 イスラエル
Direct Biologics 米国 骨髄間葉系幹細胞由来エクソソーム COVID-19によるARDS Phase 2完了、Phase 3予定 米国
ExoCoBio 韓国 幹細胞由来のエクソソーム 脱毛症 Phase 1/2a完了 韓国
Ilias Biologics 韓国 エクソソームを用いたDDS 炎症性疾患 Phase 1完了 韓国
Unicell Bio 中国 間葉系幹細胞由来のエクソソーム 肝硬変 Phase 1 中国

この表からわかるように、エクソソーム創薬は世界各国で臨床開発が進められており、難治性疾患や希少疾患への応用が期待されています。

そんな中、日本発のエクソソーム創薬ベンチャーである当社は、天然型エクソソームを用いてARDSと特発性肺線維症(IPF)という肺の難治性疾患に挑戦しています。2025年からは米国でこれらを対象とした臨床試験を開始する準備を進めており、日本発の革新的な治療法をグローバルに展開すべく、全社一丸となって取り組んでいます。米国でのPhase 1試験で安全性が確認されれば、日本国内でもPhase 2以降の臨床試験を実施し、一刻も早く日本の患者さんに新たな治療選択肢を提供したいと考えています。

エクソソーム創薬はまだ発展途上の分野ですが、その可能性は計り知れません。今後、エクソソームの特性を活かした新たな治療法の開発が加速することが予想され、患者さんの治療選択肢の拡大につながることが期待されます。日本発のイノベーションを世界に発信し、国内の医療にも貢献すべく、当社は全力で研究開発に取り組んでまいります。